パワー・オフ (集英社文庫)

パワー・オフ (集英社文庫)

パブリッシャー
集英社
価格: ¥840

パワー・オフ (集英社文庫)のレビュー

古さを感じさせない発想の力
岡嶋二人時代の「クラインの壷」の頃からお得意のバーチャル世界を舞台にしたスリラー。ただし、こちらの方がどっしりと現実に根ざした事件という体裁で書かれています。

技術の最先端を追求する趣味がない自分には、もしかしたら、本書が書かれていた時代にこの本を読んでいたら、新しすぎてついていけなかったかもしれない、と思わせる技術部分の描写もあるほど、リアリティーがあります。実際のところ、本書に書かれていることの一部は、すでに実現した、といってもいいでしょう。

はっきり理系志向の内容でありながら、飽きさせない筆力でぐいぐい引っ張るところ、さすがです。
初出の日付に注目
本書は、1994年8月に雑誌掲載されている。レビューアーの記憶が確かなら、PC9801とAT互換機(いわゆるDOS/Vパソコン)がしのぎを削っていた時代の事だ。コンピュータウイルス等というものは、ほとんど存在しないし、インターネットなんてものは一般の人は全く知らないような、そんな時代だった。「コンピュータウイルスって、人間に感染するの?」という素朴な主婦の会話をレビューアが喫茶店で小耳に挟んだのは本書の初稿が雑誌に載ってから数年も後の話である。そして、今なお、知っている人に言わせればとんちんかんな「コンピュータウイルスって、子供にうつる?」という疑問はポピュラーなのである。さてさて、井上夢人氏の作品はレビューを書くのが難しい。なぜなら、少しでも内容に踏み込もうものなら、一部の読者から「ネタバレだー」とのクレームが届くだろうし、かといって全く内容に踏み込まないのではレビューにならない。そこで、ちょっと工夫を凝らして解説に踏み込む事にする。
 本書の解説は、当時月刊アスキーの編集長をされていた遠藤氏が書かれている。小説の解説を、コンピュータ雑誌の編集長が書く、というのはおそらくは異例の事だろう。折しも今年、アスキーはコンピュータ雑誌を卒業し、ビジネス紙として生まれ変わるそうだが、井上夢人氏の描くコンピュータは現在のコンピューティング技術の最高峰を持って到達しうるかどうか微妙な点に常にいる。岡嶋二人名義の作品ではあるが、「99%の誘拐」とほぼ同じトリックが実現できるようになったのはここ数年の事なのである。パワーオフの世界を一般の人が本質的に感じる事が出来るようになるまでに後何年の月日が必要になるのか。コンピュータ業界の末席に座る身としては頭が下がる思いである。
現在でも通用するもの
この作品が連載されていたのが94年、単行本として発行されたのが96年だから既に10年近く前の作品ということになる。機種などを含めたインフラ関係が古く写るのは致し方あるまい。

この作品で扱われているのは、ネットワークを通じて繁殖するコンピュータウィルス。これだけ古い作品でありながら、その対応に追われる人々、反応などは共通するものがあり、同じくコンピュータを扱う(と言っても、ネットをしたりするだけだが)立場で見て共感できた。オンライン小説を主催するなどして、深く関わっている著者だからこそ書けたのだろうな、と思う。

ただ、自ら繁殖し、進化するウィルスという辺りは、(今後できるかも知れないが)現段階では、SF的なイメージから抜けられず、SFとしてはやや現実的すぎるきらいがある。その辺りがどうか・・・。

コンピュータウイルスについて知らなくても大丈夫
コンピュータの詳しい知識なんかなくても十分楽しめます。
読後には考えさせられる部分が沢山あります。

パラサイトイブを読んでおくと、面白さが深まると思います。
出だしの「コンピュータウイルスによって怪我をする」エピソードによって、すぐに小説の世界にひきこまれていくでしょう。

とても十年前の話とは思えません
この物語は、今現在発生しているウィルス騒動を十年も前に予見していたかのような物語です。
インターネット等今ほど一般に知られておらずパソコン通信で個々のコンピュータが繋がっていたころに書かれていたにも関わらずいま読んでも決して遜色の無い物語であることは間違いないでしょう。
お勧めです